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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)59号 判決 1950年11月08日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人渡部信男の上告趣意第一点及び第二点について。

原審第二回公判において立会検事が被告人に対し附帶控訴をしたこと、及び原判決が第一審で無罪になった事実である山田宗七に対し、被告人が人絹織物等二八〇疋を販売譲渡した点を有罪と判定したことはいずれも所論のとおりである。しかし同一事件においては、訴訟のいかなる段階においても唯一の危険があるのみであって、そこには二重危険というものは存在しないのであるから下級審における無罪又は有罪判決に対し、検察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは、被告人を二重の危険に曝すものでもなく、従ってまた憲法三九条に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでないことは当裁判所の判例(昭和二四年新(れ)第二二号同二五年九月二七日大法廷判決参照)とするところであるから本件において検事が附帶控訴をしたこと及び第一審で無罪となった事実を原判決が有罪としたことは、いずれも憲法三九条に違反するものであるということはできないのである。論旨はいずれも理由がない。

同第三点について。

原判決が所論の証拠によって被告人が山田宗七から小巾織物三六五反を買受け、又同人に対し人絹織物二八〇疋を売却した事実を認定していることは所論のとおりである。しかしながら、原審公判廷における被告人の山田宗七から繊維製品を買受け又は同人に売渡した顛末に関する供述が原審裁判所の誘導尋問により被告人の自白を強要したものであることは記録上これを認むべき事跡はないのであるから、原判決が右供述を証拠に採用したことは正当で所論のような違法はない。また裁判所が証拠に引用した被告人の自白がその裁判所の公判廷における自白であるならばそれは憲法三八条三項の自白に含まれないことは当裁判所の判例として示したところである(昭和二三年(れ)第一六八号、同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一五四四号、同二四年四月二〇日大法廷判決参照)。そして原判決が証拠に引用したのは原審の公判廷における被告人の自白であるから、たとえそれが唯一の証拠であってもその自白のみによって事実を認定できるのである。従って原判決には所論のような違法はなく論旨は採用できない。

よって旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

この判決は論旨第一、二点については裁判官全員一致の意見によるものであり、論旨第三点については、真野、斎藤各裁判官の補足意見、塚崎、沢田、井上、栗山、穂積各裁判官の反対意見を除き、その他の裁判官一致の意見によるものである。右補足意見及び各反対意見は前記引用の大法廷判決に記載されたところと同一である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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